いろいろな患者さんと治療計画を相談していると、
『入れ歯は嫌なんだけど、インプラントの手術は怖くてねえ』
とおっしゃる方がいます。
私自身、近視矯正のためのレーシック手術を約10年前に受けたときは怖かったのを覚えています。
心理的不安の軽減のための管理法
そこで、当院の疼痛および、心理的不安の軽減のための管理法を説明します。
痛みをとる麻酔法には、全身麻酔・局所麻酔がありますが、歯科医院の外来では、通常全身麻酔は行いませんので、全ての手術の麻酔法は局所麻酔になります。
これにより、手術中は完全無痛状態で治療が出来ますが、心理的不安や、骨を削られているときの振動は、冷めた意識状態のまま残ってしまいます。
そこで、鎮静法がいるわけです。これは痛みではなく前述の不安などを取り除くものです。
鎮静法には、静脈内鎮静法、薬剤による鎮静法、笑気ガスによる鎮静法などがあります。歯科の外来手術で大きな手術の場合は、静脈内鎮静法がとられることが多いようです。
これには、一般的に術者(手術を行う歯科医師)の他に、患者さんの全身管理を専門に行う麻酔医が必要です。これにより、術中の鎮静だけでなく、血圧や呼吸などの変動にも的確に対処できます。持病を持っておられる方や、手術の侵襲が大きかったり、手術時間が長い場合は最適でしょう。
しかし、欠点としては麻酔医に支払う時間単価が、治療コストに上乗せされることがあげられます。
全身的に問題の少ない健康な方で手術の侵襲も少なく、短時間で終わるようなケースの方については、鎮静なしという場合も当然あり得ますが、そういう方でも初めてのインプラント手術の場合などでは緊張される方や怖い方も多いので、当院では、薬剤による鎮静法と笑気ガスによる鎮静法を併用して手術を行っています。
ここで使われる薬剤はマイナートランキライザーといわれるもので、不眠症の患者さんの睡眠導入剤(いわゆる眠り薬)です。その中でも、逆行性健忘といって、うとうとしている時すなわち、術中の記憶を後からよく思い出せない効果をもつ薬剤を使っているため、手術中はもちろん、手術前におトイレに入ったことや、帰り方など覚えていない方がほとんどです。
帰りにはもちろん運転できませんが、これですと、麻酔医をつけなくても大丈夫なため費用の面で負担が少なくなります。
なお、そういう場合でも、リアルタイム生体モニターにより、全身をモニターしながら手術を行っています。
さらに、鼻から笑気ガスといって、不安や緊張を軽減し、ほろ酔い気分になるような感じのガスを吸って手術を行っています。
インプラントの手術は、基本的には、感染のない骨に感染のないインプラントを入れる手術であり、膿んでいる状態で抜歯する場合のように、すでに感染のあるところに傷をつける訳ではありません。
手術にもよりますが、骨造成などを行わない通常の手術であれば、術後の腫れはほとんど出ないようです。