皆さんは、むし歯予防法として何が思いつきますか?砂糖制限と歯ブラシではないでしょうか。ついでにいえば、むし歯ができてしまったら早めに削ってつめてもらうということではないでしょうか。これが、よく言う3大予防原則です。

従来の虫歯の病因論と3大予防原則

これは、上図のようなむし歯の病因論から考えられたものです。

これは、実に単純な考え方で『甘いものを食べると、むし歯菌が酸を出すことで歯が溶ける。溶けた歯は元に戻らない。』

この3段論法を前から順に遮断するのが、3大予防原則です。

つまり、砂糖を食べなければ、細菌は酸を出せない。

むし歯菌が酸を出すので、むし歯菌は徹底した歯ブラシで減らしましょう。穴ができたら自然治癒しないので、早めに削ってつめる。

さて、それでは、3大予防原則は本当にむし歯予防に効果があるのでしょうか?順に考えて見ましょう。

まず、砂糖制限の予防効果について考えてみましょう。

砂糖制限とDMFT

日本 フィンランド デンマーク オランダ アメリカ スイス
砂糖消費量 Kg 26 42 50 54 36 46
12歳DMFT 4.9 1.2 1.6 1.7 1.8 2.3

上の2つの図をみて下さい。この図は各国の国民1人あたりの年間砂糖消費量と12歳児のDMFTの関係を表した図です。

DMFTとは、現在むし歯の歯の数と、過去むし歯であった歯の数の合計です。

日本をみると、砂糖消費量が少ないのに、むし歯(DMFT)が多いことがわかります。

ほかの国は、日本の1.5倍、2倍砂糖を摂っていても、むし歯が1/2,1/3であることがわかります。

つまり、不特定多数を対象とした(公衆衛生的な)むし歯予防法としての砂糖制限は、効果が低いのです。

次に、歯ブラシによるむし歯予防効果を見てみましょう。

1日1回歯を磨く人

上の図を見てください。これは、各国の1日1回以上歯ブラシする子供の割合を表にしたものです。

もともと日本人は清潔好きな国民です。ウォシュレットや便座除菌シートを開発したのは日本人です。

磨けているかは別として、よく磨いているのです。もちろん、食事のたびに1日3回・4回・5回磨けばいいのでしょうが、わたしたちは、歯のためだけに生きているわけではありません。

最小限の歯ブラシで口腔内を健康に保てれば、それが一番いいに決まっています。

私たち日本人は細菌を嫌う傾向がありますが、ある程度の細菌がいることで免疫機能も鍛えられます。つまり、人間は細菌と共生しているわけです。

ですから、もう一度いいますが、健康を害さない範囲で清潔を保てばいいわけです。毎日の入浴のたびに、あかすりをしていては、それは無駄以外のなにものでもありません。

従って、1日2回以上歯を磨く日本人に「もっと磨きなさい」と指導するのは現実的ではないのです。

実際、カナダのう触予防ガイドラインや、イギリスの歯科医師会のHP、アメリカ予防医療研究班のガイドラインをみても不特定多数を対象とした(公衆衛生的な)むし歯予防法としての歯ブラシ(歯磨き粉なしの空磨き)は、効果が低いと書かれています。

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歯磨きが重要なわけ

歯科疾患予防ガイドライン

それでは最後に早期発見・早期充填についてみてみましょう。

これには、2つの大事な視点が含まれています。

1つ目は、むし歯が進行していってどの段階で削るか、つまり、いつ削るか?です。

2つ目は、どう削るか?です。

溝がちょっと黒いだけ・・・

私は、小学校の歯科検診時に子供たちの写真を撮っています。上の子は、お口の中に多数のむし歯がありました。

また、6歳臼歯も溝に着色がみられたので、CO(むし歯になりそうな歯)がありますとお知らせを出しました。

(上写真黒矢印)

1年後、他院での治療結果が下の写真です。彼は、夏休み前に治療にいったそうです。

そこで、6歳臼歯は上下左右4本ともむし歯と診断され金属の詰め物が入りました。

それでは、この歯の今後はどうなるのでしょう。下の図を見てください。

削って安心していませんか?

日本の場合、詰め物もかぶせ物も5年から7年でやりかえられながら、だんだん歯が少なくなり、やがて神経をぬき、最後は、根の先に膿がたまったり、歯が折れたりして国民の平均でも(1998年の歯科疾患実態調査ベースで) 下の6歳臼歯は45歳で抜けています。

穴が開いたら、削って詰めるしかないわけですが、日本の場合、削る時期や削り方に問題がありそうです。⇒「むし歯の治療」へ

つめものなどの修復物が入ることは、将来のむし歯や歯周病のリスク・危険性を高めます。

天然歯表面に比べ、つめものと歯の接合部はプラークがつく温床になるからです。

日本とスェーデンとの比較

むし歯はほぼ国民全員がかかる疾患のため、私たちは、削って詰めることに慣れています。

しかし、スウェーデン南部では、上図のようにむし歯の経験すらなく、19歳を迎えられる市民の割合は22.3%にのぼります。

前述のDMFTも日本の9.5に比べ、3.1となっています。

(日本の20歳のDMFTはここ30年横ばいで、歯科医学の進歩が日本国民の口腔内に及んでいないことがわかります)

つまり、穴にするまで何もしないで、穴になったから安易に削って人工物に置き換える医療はいまや時代遅れです。

私たちは、子供たちをむし歯なしに育てるノウハウを持っています。

むし歯のない健康な口腔内を作ることこそ、いま必要とされていることなのです。